だってあなたは サンプル

さとし@システム管理

夜中に、自分の名前を呼ぶ声がしたら、返事をしてはいけない。それは、うちの学校で昔から言われている話だった。「返事をすると、連れていかれるんだって」「名前を知られたら、次は逃げられないんだって」最初にそれを聞いたとき、私はただの怖い話だと思った。休み時間に友だちがする、よくある怪談のひとつ。トイレの鏡がどうとか、音楽室のピアノがどうとか、そういうのと同じ。でも、ある夜、私はその話を思い出した。眠っていたはずなのに、ふっと目が覚めた。部屋は真っ暗で、窓の外から車の音がかすかに聞こえる。パパもママももう寝ていて、家の中はしんとしていた。喉がかわいて、少しだけ水が飲みたいなと思った、そのとき。「……ねえ」声がした。女の子の声だった。小さくて、かすれていて、でもすぐ近くで聞こえた。私は一瞬で目が覚めた。布団の中で息を止める。気のせいだと思いたかった。夢の続きかもしれないと思いたかった。でも、また聞こえた。「……ねえ」「そこにいるんでしょう」背中が冷たくなった。声は、部屋の外から聞こえていた。ドアの向こう。廊下のどこかから。私は布団をぎゅっと握った。心臓がうるさいくらい鳴っていた。「……いるの、わかってるよ」返事をしてはいけない。昼間に聞いた怪談が、急にはっきりと思い出された。名前を呼ばれても返事をしちゃだめ。もし自分の名前を呼ばれても、絶対に。私は目を閉じて、聞こえないふりをした。しばらくして、声は聞こえなくなった。次の朝、私は昨日のことをママに話した。でもママは、「夢でも見たんじゃない?」と笑っただけだった。私も、明るい部屋で話していると、そんな気がしてきた。本当に夢だったのかもしれない。そう思うことにした。でも、その夜も目が覚めた。今度は、声より先に音がした。……ぺた。裸足で床を歩くみたいな音。……ぺた。……ぺた。家のどこかを、だれかがゆっくり歩いている。私は布団の中で固まった。パパやママが起きたにしては、歩き方がおかしい。まっすぐ歩かないのだ。止まって、また歩いて、少し戻って、また歩く。まるで暗いところで、何かを探しているみたいに。……ぺた。……ぺた。足音は、少しずつ近づい…
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