十三階のない灯り サンプル
さとし@システム管理
残業帰りの、深夜一時。きみの住むマンションは、十五階建て。けれど、なぜか十三階だけが、どの案内板にも存在しない。エレベーターのボタンも、12の次は、いきなり14だ。その夜、きみは箱に乗り、14を押した。扉が閉まりかける、その直前。細い手が、閉じかけた隙間に、するりと差し込まれた。きみは反射的に『開』を押し、扉を開けてやった。俯いた女が、音もなく箱に乗り込んでくる。女は何も押さず、ただ壁の一点を見つめている。箱が上がりはじめる。八、九、十。十一の次、表示が『13』と、赤く光った。ないはずの階だ。箱は、その十三階で停まり、扉が音もなく開いた。きみは動かず、『閉』と14を、続けて押した。けれど扉は、開いたまま、びくともしない。十三階の廊下は、きみのフロアと寸分違わぬ造りだった。ただ、どの部屋の表札も、真っ黒に塗りつぶされている。きみは、目をそらし、息を殺した。女が、ぽつりと言う。『ここで降りないと、もう帰れないよ』きみは、その言葉に逆らって、その場にとどまった。非常灯だけが、赤く床を照らしている。女が、一歩、きみのほうへ近づいた。きみは壁に背を押しつけ、女から目を離さなかった。そのとき、数字がかすかに動いた。十二……十四。扉が開く。きみは転がるように、自分の部屋へ帰り着いた。鍵をかけ、布団をかぶって、朝を待つ。翌朝、エレベーターのボタンから、14の数字が消えていた。かわりに、13が、静かに灯っていた。
最初の分かれ道
細い手が、閉じかけた隙間に、するりと差し込まれた。
- きみは反射的に『開』
- きみは見て見ぬふりで、『閉』を押し続けた。