10ROOTs
q6
町の外れに岬があり、その先端に温室がある。 ガラス張りのドーム型で、日差しをきらきらと反射しているのを遠目に見る。 私は配達夫である。 町に届いた荷物を住人に届け、住人の荷物を他へ届けている。 ある日隣町の配達夫からひとつの箱を手渡された。 ひと抱えほどの箱は紙製で、ここ連日晴れていたからか、からっと乾いていて、四隅もぴんと角が立っている。「よろしく頼むよ」 隣町の配達夫に箱を渡され、私は頷いた。 彼が去ったあとに宛名を見ると、岬の先の温室宛てだった。「あそこか」 私はこの町の配達夫をして長いが、あそこに届ける荷物ははじめてである。 新人だった頃の心持ちを久方ぶりに思い出して、背すじを伸ばして自転車の荷台に箱を括りつけた。 絵具で塗ったような薄青い空の下を自転車で走る。 きこきことペダルを漕ぐ。 私がペダルを踏むと、そのちからがところどころ錆びたチェーンを伝わり、後輪を回す。私がひと漕ぎ分進む。 町は丁度午後の休息の時間で、どの家も扉を閉めて静かだ。 店も庇を深く下している。 軒下のテーブルに客はおらず、猫も眠っていた。 午睡の中の町を抜け、緩やかな坂をのろのろと上っていくと、ようやくガラスがお日様の光をきらきらと反射させているところが見える。 温室の前に自転車を止めて、荷台から箱を大切にとり上げる。 温室の周囲に人はおらず、ところどころペンキの剥げた白いポストには「お荷物は温室の中へお持ち下さい」 と書かれた紙が留められていた。 私は紙の通りに温室の入り口に立つ。 ガラスの扉は随分と背が高い。 温室の中はこの町よりも暖かな土地の草木が、濃い緑色の葉を鬱蒼と茂らせていた。色とりどりの点の大きなものは花や果実だろうか。 小さな点は縦横に動き回っているので、鳥だろう。 私は鳥たちを温室の外へ出さないように、そっとガラスの扉を開けた。 温室の中は明るく暖かく、甘い芳香と草木のにおい、鳥という生き物独特のにおいに満ちていた。 私は鳥飼いである。 なぜ忘れていたのだろう。 白いからだに青い羽と赤い尾を持つのは仙八色鶫、 萌黄のからだと黒く細長いくちばしは栗喉蜂虎、 鈍い褐色の背中…
最初の分かれ道
と書かれた紙が留められていた。
- 私は紙の通りに温室の入り口に立つ。
- そうは言われても、と周囲を見回してみる。